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仕事、投資、技術メモ、オカルト、その他クソミソな趣味や日常についてあれこれ綴る、日記帳というより雑記帳。忘却の彼方に置き忘れた夢と情熱を求めて彷徨中。

氷の造形魔法

もう9月に入ったこともあり、
夜はすっかり涼しくなってきた。
しかしそれでも日中はまだまだ暑い。

湿気はなくカラッとはしているものの、
依然としてうだるように暑い昼下がり。
最近はとことん自堕落な生活を送っている
僕は、チャリンコで街をブラブラしていた。

この街には本当に子どもが多い。
ふと、小学生時代の思い出が
脳裏に蘇ってきた。


「氷のおばちゃん」
そう呼ばれていたおばちゃんがいた。
あれは確か小学2年生の時である。
通学路の古い住宅が立ち並ぶその一角に、
そのおばちゃんは住んでいた。

夏の暑い日、近所の子供たちに冷たい
氷をくれるおばちゃんがいて、いつからか
その話題は小学生の間で有名になっていた。
下校時には必ず立ち寄り、我が我がと
おばちゃんに詰め寄るほど、おばちゃんの
氷は大人気を博していた。

おばちゃんがくれる氷には、ハート型、丸型、
星形など形状にいくつかバリエーションがあり、
僕は棒状の氷を貰えた時が一番
嬉しかったことを覚えている。

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当然味付けも何も無いただの純粋な氷であり、
今思い返せば子供だましの代物であった。
しかしそれでも、あの時の子供だった
僕らにとって、おばちゃんがくれる氷は
何物にも代えがたい特別な氷だった。


しかし、そんな時代も長くは続かない。
僕らがおばちゃんから氷を貰い始めて
何年目かの夏、突如として終わりは訪れる。

友達との下校中、いつものように
我が先にとおばちゃんに氷を貰いに行くと、
「ごめんね、もう氷はあげられへんのよ」
と、おばちゃんは言い、そのまま俯いた。
なぜかと理由を尋ねる、おばちゃんは
「学校にあげたらダメって言われてん」
と悲しそうに答えた。

俯き曇った表情を変えることなく、
おばちゃんの家の扉は閉ざされ、
もう二度と開くことはなかった。
以来、僕らとおばちゃんはそれっきりだ。


親から学校へ連絡があったのだろうか、
氷のおばちゃんの存在は学校側に伝わり、
そして学校からおばちゃんへ
子供との接触禁止令が出たらしい。

「子供たちを街の不審者から守る」
という意識が今ほどピリピリしていない
古き良き牧歌的時代であった当時でさえ、
おばちゃんの行為は保護者にとって
看過できないものであったようだ。

保護者の対応としてはそれで正しかった、
と今でもそう思っている。それでも
僕らは子供心ながらに、おばちゃんと僕らの
関係を引き裂いた学校への憤りを感じたし、
おばちゃんを悲しませたことを恨みもした。
しかし、やはり僕らは子供だった。
いつしかおばちゃんの存在などすっかり忘れ、
おばちゃんのいない帰り道にもすぐ順応した。


あれからもう20年以上経つ。
夏の暑い日に、往来の元気な子供たちが
アイスを頬張っているのを見かけると、
時々あのおばちゃんのことを思い出す。

氷を貰うのが何より嬉しかったことも。
あの時のおばちゃんの悲しそうな顔も。
知らないところで、自分は親や学校に
守られていたことを感じると同時に、
自分の手の及ばない所でいつの間にか
周りの環境を変えられてしまうことも。

当時、そこそこ高齢だったおばちゃんは
もう恐らく亡くなっていることだろう。
(おばちゃんというよりおばあちゃんだった)

今の時代では危険視されるであろう
当時のおばちゃんの行動に、子供だった
僕たちはどれほどワクワクさせられただろう。
この先も、おばちゃんへの感謝と共に、
おばちゃんのことは忘れないでいようと思う。